すぐに驚きの声が上がったことの1つが,ヒトゲノムに遺伝子が約3万しかないことだった。回虫には1万9000,酵母菌でさえも6000ある。ヒトについての大方の推定では,単にプライドのためかもしれないが,10万以上とされていた。そんなに少ない遺伝子で,どうしてこれほど複雑なものが生まれるのか。実は重要なのは遺伝子の数ではなく,遺伝子がどう組み合わさって発現するかであり,その方法は本質的に無限にある。人類の多様性に関係している遺伝子はさらに少ない。発見されたものの93パーセントは共通なので,個人で異なる遺伝子は2000ほどにすぎない。しかしそれでも,同じ遺伝子を持つ人間が一卵性双生児以外はいないことを保証するには十分すぎる数である。たった10桁の電話番号でも,地球上のすべての人に固有の番号を割り当てるのには十分なのと同じだ。
デイヴィッド・オレル 大田直子・鍛原多恵子・熊谷玲美・松井信彦(訳) (2010). 明日をどこまで計算できるか?「予測する科学」の歴史と可能性 早川書房 pp.210
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