だが,最近のことでなにより特異なのは,きわめて高い経済成長率だ。米国などの工業国では,国内総生産の成長率目標を年3〜4パーセントとするのが一般的だ。平均的な労働者が2000年前に1日1ドル稼いでいたとすると,以来,実質成長率がたった1パーセントに維持されただけで,今の給料はなんと1日4億3900万ドルになる。NBAのプロバスケット選手になっても届かない額で,これは明らかにありえない。経済成長は,産業革命による比較的最近の副産物だ。裕福な国々は今のところ,考えられる限り最高の世界を手にしている。気候がよく,衛生状態もよく,経済は爆発的に成長している。パン作りに喩えれば,私たちは生地の中のイースト菌のコロニーだ。生きていくために必要なすべての要件が周到に整えられ,タオルにくるまれ,暖かい場所でだれにも邪魔されず,指数関数的に増えている。さて,この状況はいつまで続くのだろうか?
デイヴィッド・オレル 大田直子・鍛原多恵子・熊谷玲美・松井信彦(訳) (2010). 明日をどこまで計算できるか?「予測する科学」の歴史と可能性 早川書房 pp.301
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