今日,ガイア理論は生態学の世界では確立されており,そこから地球システム学(地球規模のシステム生物学のようなもの)などの学際的な分野が生まれたりしたが,ときには粗悪な科学,さらには「危険な」科学と見られることもある。その理由のひとつは,喩え(メタファー)をあからさまに使っていることかもしれない。地球は生きていると言われても,それを客観的に証明することはできない。喩えは物事の捉え方として便利なだけだ。ラヴロックも書いているように,科学者からは「軽蔑に値するもの,厳密ではない,したがって非科学的なもの」と見なされているのが喩えである。アリストテレスは,「喩えは詩的な道具だが,自然にかんするわれわれの知識を高めるものではない」と述べている。科学者はメディアを,大衆受けしそうな作り話(少なくとも科学者が賛同しないもの)ばかり注目すると厳しく非難する。だが,モデルのほうも常に作り話,実世界の喩えだ。出来事を順を追って説明する,想像力の産物である。喩えを避ける唯一の方法は,純粋な数学的抽象化の域から出ないことだ。
デイヴィッド・オレル 大田直子・鍛原多恵子・熊谷玲美・松井信彦(訳) (2010). 明日をどこまで計算できるか?「予測する科学」の歴史と可能性 早川書房 pp.353-354
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