“生食主義者”とは,手に入るかぎり100パーセントか,それに近い割合の食物を生で食べる人々を指す。彼らの体重に関する研究は3例しかなく,いずれの場合にも痩せていることがわかっている。そのなかでもっとも大規模な研究は,栄養学者のコリンナ・ケプニックらがドイツのギーセンでおこなったアンケート調査で,食物の70パーセントから100パーセントを生で食べる513人を対象としたものだ。生食の理由は,健康になるため,病気にならないため,長生きするため,自然に生きるためとさまざまだった。生の食物には,料理していない野菜やときどきとる肉だけでなく,冷搾法による油や蜂蜜,熱をわずかに用いたドライフルーツや乾燥肉,乾燥魚などが含まれていた。肥満度を表すのには,体重を身長の2乗で割ったボディマス指数(BMI)が使われた。結果を見ると,生で食べる食物の割合が増えるにつれ,BMIが下がっていった。料理した食物から生の食物に移行したときの平均的な体重の減少は,女性が26.5ポンド(12キロ),男性が21.8ポンド(9.9キロ)。純粋な生食主義者の集団(全体の31パーセント)のうち3分の1が,慢性的なエネルギー欠乏を示す体重だった。栄養学者たちの結論は明白だった——厳密に生の食物だけをとる食事法では,かならずしも充分なエネルギー供給ができない。
このギーセンの調査で摂取された肉の量は記録されていないが,生食主義者の多くはほとんど肉を食べない。肉の摂取量が少ないことがエネルギー不足につながった可能性はあるだろうか?それはある。しかし,料理したものを食べる人々のあいだでは,ベジタリアンと肉食者に体重の差はない。食材が料理された場合には,ベジタリアンのメニューからでも,肉の多い典型的なアメリカふうのメニューと同等のカロリーをとることができるのだ。顕著な体重減少が見られるのは,生で食べる場合だけである。
リチャード・ランガム 依田卓巳(訳) (2010). 火の賜物:ヒトは料理で進化した NTT出版 pp.19-20
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