ミック・ジャガーがどれほど大きなあくびをしても,チンパンジーの大きさには敵わない。口が内臓への入り口であることを考えると,この大きさの種としてヒトの口は驚くほど小さい。大型類人猿はみな前方に突き出た口(突顎)を持ち,顎も大きく開く。チンパンジーはものを食べるときに,口をヒトの2倍の大きさまで開けることができる。あなたもいたずら好きのチンパンジーにキスをされれば,このことを思い知るだろう。霊長類のなかで一並みに小さな口を探すなら,体重1.4キロ(3ポンド)以下のリスザルといった小型種にたどり着くしかない。開口部が小さいだけでなく,私たちの口は容積も小さい——体重はチンパンジーより約50パーセント多いのに,口腔の容積はチンパンジーとほぼ同じだ。動物学者はよくヒト属の本質的な特徴を,体毛が薄く,二足歩行で,脳が大きい類人猿としてとらえようとするが,口の小さな類人猿と定義してもいいくらいだ。
リチャード・ランガム 依田卓巳(訳) (2010). 火の賜物:ヒトは料理で進化した NTT出版 pp.43-44
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