1日に6時間咀嚼するチンパンジーの母親は,1日に1800カロリーを消費する。つまり,咀嚼1時間ごとに約300カロリーを消化吸収しているということだ。チンパンジーに比べると,ヒトは食物を噛まずに飲み込むのに近い。多くの成人は1日に2000から2500カロリーを摂取するが,1日にわずか1時間ほどしか噛んでいないことから考えると,カロリー摂取率は時間あたり平均2000から2500以上,すなわちチンパンジーの6倍以上だ。ハンバーガーやキャンディバー,祭日のごちそうといった高カロリーの食物をとれば,当然ながらこの率はさらに高くなる。ヒトは明らかに,ほかの霊長類よりはるかに密度の濃いカロリー消費をおこなってきた。料理のおかげで1日約4時間の咀嚼時間を節約することができるのだ。
リチャード・ランガム 依田卓巳(訳) (2010). 火の賜物:ヒトは料理で進化した NTT出版 pp.140-141
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