日本では90年代後半以降,年間3万人を超える人たちが自殺しており,人口十万人あたりの自殺率は旧ソ連とならんで世界トップクラスだ。その原因は「新自由主義による貧富の異格差の拡大」とされるが,ぼくはずっとこの説明が不満だった。“市場原理主義”の本家であるアメリカの自殺率は,日本の半分以下しかないからだ(日本の自殺率25に対し,アメリカ,カナダ,オーストラリアは10,イギリスは5)。
だが日本的経営の「神話」から自由になって,“悲劇”の原因がようやく見えてきた。高度成長期のサラリーマンは,昇給や昇進,退職金や企業年金,接待交際費や福利厚生などのフリンジベネフィット(現物給付)によって大嫌いな仕事になんとか耐えていた。ところが「失われた20年」でそうしたポジティブな側面(希望)があらかた失われてしまうと,後には絶望だけしか残らない。このグロテスクな現実こそが,日本的経営の純化した姿なのだ。
橘玲 (2010). 残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法 幻冬舎 pp.225
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