日本的経営とハッカー・コミュニティは,「評判獲得ゲーム」という同じ原理を持っている。一見奇妙に思えるけれど,これは不思議でもなんでもない。モチベーションという感情も,愛や憎しみと同じように,進化という(文化や時代を超えた)普遍的な原理から生み出されるからだ。
でも両者には,大きなちがいがある。
世界から隔離された伽藍(会社)のなかで行なわれる日本式ゲームでは,せっかくの評判も外の世界へは広がっていかない。それに対してバザール(グローバル市場)を舞台としたハッカーたちのゲームでは,評判は国境を越えて流通する通貨のようなものだ(だから,インドの名もないハッカーにシリコンバレー企業からオファーが届く)。
高度化した知識社会の「スペシャリスト(専門家)」や「クリエイティブクラス」は,市場で高い評価を獲得することによって報酬を得るというゲームをしている。彼らがそれに夢中になるのは,金に取りつかれているからではなく,それが「楽しい」からだ。
プログラミングにかぎらず,これからさまざまな分野で評判獲得ゲームがグローバル化されていくだろう。仕事はプロジェクト単位になり,目標をクリアすればチームは解散するから,ひとつの場所に何十年も勤めるなどということは想像すらできなくなるにちがいない。そうなれば,会社や大学や役所のようなムラ社会の評価(肩書)に誰も関心を持たなくなる。
幸福の新しい可能性を見つけたいのなら,どこまでも広がるバザールへと向かおう。うしろを振り返っても,そこには崩れかけた伽藍しかないのだから。
橘玲 (2010). 残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法 幻冬舎 pp.227-228
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