多様性と流動性のあるバザールでは,ネガティブな評価を恐れる理由はない。不都合な評価を押しつけられたら,さっさとリセットして自分を高く評価してくれる場所に移っていけばいいだけだ。だからここでは,実名でポジティブ評価を競うのがもっとも合理的な戦略になる。
一方,いったん伽藍に閉じ込められたら外には出られないのだから,そこでの最適戦略は匿名性の鎧でネガティブな評価を避け,相手に悪評を押しつけることだ。日本人はいまだに強固なムラ社会が残っていて,だからぼくたちは必要以上に他人の目を気にし,空気を読んで周囲に合わせようとする。伽藍の典型である学校では,KY(空気が読めない)はたちまち悪評の標的にされてしまうのだ。
日本は世界でもっとも自殺率が高く,学校ではいじめによって,会社ではうつ病で,次々とひとが死んでいく。情報革命はネガティブ情報を癌細胞のように増殖させ,伽藍を死臭の漂うおぞましい世界へと変えてしまった。
ぼくたちは生きるために,伽藍を捨ててバザールへと向かわなくてはならない。
橘玲 (2010). 残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法 幻冬舎 pp.246
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