自分の能力は石版に刻まれたように固定的で変わらないと信じている人——「こちこちマインドセット」の人——は,自分の能力を繰り返し証明せずにはいられない。知能も,人間的資質も,徳性も一定で変化しえないのだとしたら,とりあえず,人間としてまともであることを示したい。このような基本的な特性に欠陥があるなんて,自分でも思いたくないし,人からも思われたくない。
教室でも,職場でも,人づきあいの場でも,自分の有能さを示すことばかりに心を奪われている人を私はこれまでおおぜい見てきた。ことあるごとに自分の知的能力や人間的資質を確認せずにはいられない人たち。しくじらずにうまくできるだろうか,突っぱねられやしないか,勝ち組でいられるだろうか,負け犬になりはしないか,といつもびくびくしている。
それとは違った心の持ちようもある。
初めに配られた手札だけでプレイしなくてはいけないと思えば,本当は10のワンペアしかなくても,ロイヤルフラッシュがあるかのごとく自分にも他人にも思いこませたくなる。けれども,それを元にして,これからどんどん手札を強くしていけばよいと考えてみたらどうだろう。それこそが,しなやかな心のもち方,つまり,「しなやかマインドセット」なのである。その根底にあるのは,人間の基本的資質は努力しだいで伸ばすことができるという信念だ。もって生まれた才能,適性,興味,気質は一人ひとり異なるが,努力と経験を重ねることで,だれでもみな大きく伸びていけるという信念である。
キャロル・S・ドゥエック 今西康子(訳) (2008). 「やればできる!」の研究:能力を開花させるマインドセットの力 草思社 pp.16-17
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