1990年代に,フィギュアスケートの実体をよく浮かび上がらせる研究がおこなわれた。一流スケート選手と二流以下のスケート選手では,遺伝子にも性格にも家庭環境にも大きなちがいは見られなかった。ちがいがあったのは練習の種類だ。すぐれたスケート選手たちはつねに現在の能力をこえるジャンプを試みるが,ほかのスケート選手たちはそれをやらない。
注目してほしいのは,一流のスケート選手がより難易度の高いジャンプに取り組んでいるだけではないことだ.すぐれた選手にはどのみちむずかしい難易度の高いジャンプが求められる。肝心なのは,一流スケート選手が自分のすぐれた技量から見て,もっと難易度の高いジャンプに挑戦することだ.結論は直感にそぐわないものなのだが,事実を浮き彫りにしてくれる。つまり,一流のスケート選手は練習のなかで,もっと多く転んでいるのだ。
目的性訓練とは,少しばかり力がおよばなくて実現しきれない目標をめざしてはげむこと。現在の限界をこえる課題に取り組んで,くり返し達成に失敗することだ。傑出とは,快適な領域から踏み出し,努力の精神をもってトレーニングにはげみ,艱難辛苦の必然性を受け入れることにかかっている。じっさい,進歩は必然的な失敗の上に築かれる。これはプロのパフォーマンスにかんするもっとも重要なパラドックスだ。
マシュー・サイド 山形浩生・守岡桜(訳) (2010). 非才!:あなたの子どもを勝者にする成功の科学 柏書房 pp.94-95
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