2003年に2人のアメリカ人心理学者,グレッグ・ウォルトンとジェフリー・コーエンが興味深い実験を考案した。イェール大学学部生の一団に,解くことができない数学の問題を与えたのだ.しかけが1つ施してあった。前もって学生たちには,かつてイェール大学で数学を学んだネイサン・ジャクソンという人物が書いたレポートを読むように言いわたしてあった。表向きは数学科について若干の予備知識を与えるという口実だったが,じつはこれが研究者2人の策略だった。
じつはジャクソンというのは架空の学生で,じっさいにレポートを書いたのはウォルトンとコーエンだった。「ジャクソン」はレポートのなかで,どんな仕事に就くべきかわからずに大学に来て,数学に興味をもち,現在ではある大学で数学を教えているという経歴を語っていた。レポートのなかほどには,ジャクソンの個人情報を一部記したコマがあった。年齢,出身地,学歴,誕生日。
さて,うまいのはここからだ。半分の学生については,ジャクソンの誕生日にはその学生じしんと同じに変えてあった。残りの半分の学生には変えていないものがわたされていた。「数学に長けた人間と誕生日が同じ,というなんの関係もないことが,動機を刺激するかどうか調べてみたかったのです」と,ウォルトン。学生たちはそのレポートを読んだうえで難問を解くように求められたのだ。
ウォルトンとコーエンが驚いたことに,ジャクソンと同じ誕生日の学生たちの動機水準は少々上がったり,はね上がったりしたどころではない。激増したのだ。誕生日が同じ学生たちは,そうでない学生たちに比べて65パーセントも長く解けない難問に取り組み続けた。また,数学にたいしてもかなり積極的な態度を見せ,じしんの能力をより楽観的にとらえていた。はっきりさせておくと,学生たちはジャクソンのレポートを読むまで,数学に取り組む姿勢はみな同じだった。
マシュー・サイド 山形浩生・守岡桜(訳) (2010). 非才!:あなたの子どもを勝者にする成功の科学 柏書房 pp.130-131
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