ファラデーは19世紀のすぐれた科学者の典型だった。1808年以来,つねにロンドンの王立研究所で科学を革新しつづけてきた。化学の分野では,塩素を液化してみせ,物質は気体から液体へと変化することを実証した。エンジン燃料の重要成分となるベンゼンの分離にも成功している。これらの業績に加え,1831年には,ダイナモと名づけた発電機と,電動モーターの原型を発明している。さらに簡単な電池を設計し,変圧器を作る実験もした。彼がいなければ,工業はこれほど急速には発展しなかっただろう。
ファラデーの《タイムズ》紙への投書は,終えたばかりの実験に関するものだったが,それは発明とはなんの関係もない実験,テーブル・トーキングの実験だった。
この実験用に,ファラデーは2枚の板を用意し,そのあいだにガラスのローラーをいくつか置いて,全体をゴムバンドでとめた。あいだにローラーがあるので,上の板を押すと,下の板の上でするすると動く。上の板に取りつけた器具が,どんな小さな動きも記録する仕組みになっていた。
そのあとファラデーは参加者をテーブルのまわりに座らせ,上の板のふちに指をのせてもらった。参加者らが自分は身じろぎひとつしなかったと言い張ったにもかかわらず,板は動いていた。だが,そこに神秘はない。霊の力など働いていないのだ。。ファラデーはそう言い切った。
器具が何度も記録していたとおり,板に触れている人々がそれを押して,ローラーの転がる方向に動かしていたのだ。この実験は,テーブル・トーキングの参加者がみずからの動きに気づいていない場合がよくあることを示していた。ファラデーの言うように,板は無意識の筋肉の震えに反応したのであり,「参加者が不注意に機械的圧力を加えたにすぎな」かった。
デボラ・ブラム 鈴木 恵(訳) (2010). 幽霊を捕まえようとした科学者たち 文藝春秋 pp.39-40
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