麻酔による天才のなんとはかないことか。ガーニーは前にも同じ体験をしていた。だからもう一度できるのではないかと思った ——自分の体質を考えれば。彼はときおり激しい神経痛に悩まされていた。鋭い痛みがずきずきと顔面の神経を走るのである。鎮痛のためにクロロホルムを,とくにひどいときはアヘンチンキを,すなわちアヘンとアルコールを混ぜた薬を用いるようになっていた。
それはなんら隠すべきことがらではなかった。自己投薬は当時の流行だった。医者に処方された薬を,教養人や金持ちがみずから投薬するのである。ウィリアム・ジェイムズも神経痛の治療にクロロホルムを用いており,笑気ガスの吸入にともなう束の間の高揚感について論文を発表したこともある。フレデリック・マイヤーズとリチャード・ホジソンは大麻を試したことがあったが,マイヤーズは眠り込んでしまっただけで,ホジソンはめまいがして,手に負えなくなるのが気に入らなかった。「ぼくの身体は大麻を吸うようにはできていない」
アヘンチンキは痛みやストレス,憂鬱,月経痛などに広く処方されていた。ヨーロッパの医療研究者はコカインを治療薬として試していた。1884年には,若いオーストリア人精神科医のジークムント・フロイトが,『コカについて』という研究論文を発表して高く評価されていたが,その一部は,彼自身がコカインを興奮剤・抗鬱剤として用いた経験に基づいていた。
麻酔薬による悟りは,ジェイムズが残念そうに書くように,結局いつもただの錯覚だった——たとえ覚えていたとしても。ジェイムズは一度,笑気ガスの影響下で考えたことを逐一メモしてみた。翌朝見てみると,何ページにもわたって,神,昼,夜,祈りといった単語だけが,くり返し殴り書きしてあった。「正気の読者には意味のないたわごとだが,書いている瞬間は,無限の合理性の炎の中で融合しているのだ」
デボラ・ブラム 鈴木 恵(訳) (2010). 幽霊を捕まえようとした科学者たち 文藝春秋 pp.167-168
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