人と会話をしているときに浮かんでくる認知的不安は大きく分けて4つあります。1つ目は,自分の欠点を他人に知られ,その人の気分を害する(否定的な評価を受ける)ことを恐れる考えです。具体的には「変な話し方だと思われてないだろうか」「バカにされたらどうしよう」といった不安が挙げられます。
相手に欠点が伝わってしまう感覚を「自我漏洩感」といいます。たとえば笑顔を作ろうとしたものの,かえって引きつってしまい,無理をしているのが話し相手にばれてしまったと感じたことがないでしょうか。こうした「目つきや顔つきが変で嫌われたかも」という感覚を覚える人は珍しくなく,大学生では約7割が一度は経験するといわれています。しかし,自我漏洩観は対人恐怖症の症状の1つで,症状がひどくなると人と接する場面を避けてしまうようになりますので,生活に支障を来す原因となります。
認知的不安の2つ目は,対人場面を避けようとする考えです。不安や緊張が高まると,体はその場から逃げる準備をしようと反応します。頭のなかには「面倒だな」「早くこの場から逃れたい」といった考えが浮かんでいるのです。
3つ目は,会話する相手の気持や評価に関する思考です。「自分のことをどう思っているんだろう」「どうすれば仲よくなれるかな」など,他人からの否定的な評価への恐れから,他人が見る自分の姿に注意が向かっているときに生じます。こうした考えは,社交不安障害など様々な精神疾患と関係していると考えられています。
4つ目は,「会話をうまくまとめられるだろう」「相手を楽しませよう」など,会話に対する自信からくる肯定的な考えです。認知的不安という言葉のニュアンスとは少々異なる考えですが,「自動的に浮かんでくる思考」の1つとして研究されています。心理療法では,シャイな人が対人場面への不安を取り除く対処法として使用することもある思考です。他人と会うときに,肯定的な考えを繰り返し思い浮かべることで,否定的な考えが浮かぶ隙をなくすのです。
有光興記 (2010). 「あがり」は味方にできる メディアファクトリー pp.54-55
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