忍者ブログ

I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

若いときは信じることができた

 それでも,小さいものならば,ほんのときどき掴み取ることができるものだ。
 ああ,これだ,きっとこれで近づける,という感触に出会う。そういうものが幾つか集まれば,そこそこの研究成果になっていく。
 大学院生の頃の僕は,まだそんな経験をしていない。ただ,問題を解いているだけのことで,神様が出した試験問題くらいにしかイメージしていない。ただ,今になって思うのだけれど,若いときには,「これは解けるはずだ」と信じることができた。そこが若い研究者のアドバンテージだ。研究者が若いうちに業績を挙げる理由は,ここにある。年齢が増すほど,解けない例を知ってしまうから,もしかして,これは無理なのではないか,と疑り深くなり,それに比例して,少しずつ研究の最前線から退くことになる。これは,自信がないという状態とはまったく違う。研究は,気合いや自信で進められるものではないからだ。
 40代になれば,ほとんどの研究者は第一線から退いた状態になる。後進に引き継ぎ,自分は研究費を獲得するための営業に回るか,弟子を束ねて会社組織のようなものを築き上げ,トップに君臨する経営者としてアイデンティティを示すのか,それは人や分野によって様々だけれど,いずれにしても,もう研究者ではなくなっていることは確かだ。学会や協会などから業績を評価されて,表彰されるようなことはあっても,いくら新聞で取り上げられ有名になっても,もう現役の研究者ではない。このあたりは,例は悪いが,軍隊でもスポーツでも同じだ。載っているのは,例外なく最前線の若者なのだ。本を書いたり,テレビでコメンテータとして登場するのも,かつて研究者だった人。現役の研究者には,そんなことをする暇はない。自分の前にある問題と戦うことで精一杯だし,それが最も楽しいから,誰もその場から離れようとしない。

森博嗣 (2010). 喜嶋先生の静かな世界 講談社 pp.196-197
PR

TRACKBACK

Trackback URL:

bitFlyer ビットコインを始めるなら安心・安全な取引所で

Copyright ©  -- I'm Standing on the Shoulders of Giants. --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Photo by Geralt / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]