霊長類はと言うと,こちらもアフリカのサバンナから独自の超捕食者を誕生させた。歯は小さく,かぎ爪をもたず,見た目はパッとしない二本足で歩く奇妙なサルで,ただ,不思議なほど大きな脳をもっていた。このヒト科の動物は多芸多才で,オオカミやライオンのように群れで狩る戦術と,ハイエナやジャッカルのようにほかの動物の獲物を失敬する技術を合わせて習得した。その系統に最も新しく現れたのはホモサピエンスで,登場してから50万年たたないうちに,動物界最大の獲物まで殺せるようになった。そして,自分たちを襲う捕食者も殺しはじめた。
2万年前というそう遠くない昔,北米には体重が50キロ以上の肉食動物が少なくとも10種類いた。オオカミが2種,クマが3種,そのうちの1種は,立てばヘラジカほどの高さになり,クォーターホース(サラブレッドに似た乗馬・競馬用のウマ)くらいの速さで走った。スミロドン,つまりサーベルタイガーもいた。アフリカのライオンより大きいアメリカライオン,現在いるのと同じジャガーやピューマ,それにアメリカ版のチーターがいた。北米大陸は超捕食者の宝庫だったのだ。もちろんそれらの餌になる大型の獲物もいた。なかでもよく知られているのは,マンモスと,巨大な地上性のナマケモノ,メガテリウムである。ところが,彼らは突然,謎めいた最後を遂げた。
およそ1万3000年前までに,北米の大型捕食者は半減した。マンモスとナマケモノのすべてと,最大級の有蹄動物の4分の3も姿を消した。氷河期が終息し,気温が上昇しはじめた時代に——それはシベリアから槍を振りまわすハンターたちがやってきた時代でもある——動物たちがあまりにも急速に消えたことについては,一体なんのせいでそうなったのかと,20世紀を通じてずっと議論されてきた。
ウィリアム・ソウルゼンバーグ 野中香方子(訳) (2010). 捕食者なき世界 文藝春秋 pp.66-67
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