読者のなかには,学校で習った文法が,日本語の唯一正しい文法であるかのように思っていた人もいるかもしれないが,実はそうではないのである。日本語の文法の歴史を簡単に見てもそのことがよくわかる。江戸時代には本居宣長による文法があったが,最初の近代的な日本語の文法は,文部省の役人であった大槻文彦が作った。大槻は国語辞典『言海』を編纂したが,その際に英語の文法を基にして日本語の文法を作った。これ以外で代表的な文法は,山田文法,松下文法,橋本文法,時枝文法等である。現在,小学校から高等学校までで教えられている文法(学校文法)は,橋本文法を基にして作られた。
主語に関しては,三上章に代表されるように,日本語に主語はないという主張もある。これは学校文法と真っ向対立するものである。そもそも,明治以前の日本語の文法書には「主語」という言葉はない。「主語」は明治時代に輸入されたものなのである。
月本 洋 (2008). 日本人の脳に主語はいらない 講談社 pp.141-142
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