知能検査はフランス人のアルフレッド・ビネによって考え出された。ビネは検査の実施に際して,3つの基本原則を設けた。しかし,それらの原則は,アメリカの心理学者によって一貫して無視され,悪用されたのである。
ビネの原則(1) 得点は生まれつきのもの,あるいは永久的なものを何ら明確にするものではない。
ビネの原則(2) 得点等級は学習障害のある子供を見極め,助けるための大まかな指針であり,普通の子供たちを測るものではない。
ビネの原則(3) 低い得点は子供の知能が生まれつき劣っていることを意味しない。
ビネの検査はニュージャージー州にあるバインランド知的障害児訓練校の研究主任H・ゴダードによって翻訳され,アメリカに紹介された。ゴダードはこのビネのテスト得点表を使って知的障害の等級を発展させたが,それは知能を唯一絶対的なものとして認めるという仮定に基づいていた。したがって,これはビネの原則(1)に反したものであった。さらに,ゴダードは知能が子供に受け継がれることを当然のこととみなしたことから,原則の(2)と(3)も犯してしまったのである。こうして,ゴダードは社会に存在する階級構造を正当化し,不変のものであると主張した。つまり,階級ピラミッドの底辺にいる者は,生まれつき知性に乏しく,生来優秀な管理者の指導を必要とすると主張したのである。
ウイリアム・ブロード,ニコラス・ウェイド 牧野賢治(訳) (2006). 背信の科学者たち:論文捏造,データ改ざんはなぜ繰り返されるのか 講談社 pp.275-276
PR