科学はその初期の時代から2つの目的のために人間が取り組んできた舞台であった。その1つは森羅万象を理解することであり,他の1つはそのための努力について評価を得ようということである。このことを理解することによってはじめて,科学者の動機や科学者のコミュニティの姿,科学の過程そのものが適切に理解できるのである。
科学者のこの2つの目的は,多くの場合,相伴って機能するが,ある状況下においては衝突する。実験結果が期待どおりでなかったり,理論が広い支持を得られなかった場合には,科学者はいろいろな方法でデータの改良や,捏造など,さまざまな誘惑にかられるであろう。中には,自分の理論の正しさを頑固な仲間たちに説得しようとしてごまかしを行う場合もあるだろう。ニュートンは自分の万有引力の理論に対する批判者たちに反駁するため,細かな点に手を加えた。メンデルのエンドウ豆に関する統計は,いかなる理由にせよ,事実としてはあまりにもできすぎていた。また,ミリカンは電荷を説明するためデータを選択したのである。
ウイリアム・ブロード,ニコラス・ウェイド 牧野賢治(訳) (2006). 背信の科学者たち:論文捏造,データ改ざんはなぜ繰り返されるのか 講談社 pp.298
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