奇妙なことのように思えるかもしれないが,考えてみれば当然だ。霊や神の存在を信じる者には,「動物磁気」や「超能力」などという仮説を導入する必然性がないのだ。不思議な現象はすべて霊や神が起こすのだから。しかし,唯物論者であるエリオットソンは,超常現象を目にして,それを超自然的な原因抜きで説明する必要に迫られた。そこで苦しまぎれに,それが人間の持つ能力であるという説明をひねり出したのだ。
すなわち超能力という概念は,19世紀の唯物論の台頭,科学的合理主義の風潮の中で生まれたものなのである。地質学,生物学,天文学の発展により,聖書の絶対性が大きく揺らいでいた時代だったからこそ,エリオットソンの説は注目を集めることができたのだ。エリオットソンが1世紀早く生まれていたら,彼の理論は世間に受け入れられなかっただろう。2世紀早かったら,火あぶりにされていただろう。
山本弘 (2003). 神は沈黙せず 角川書店 p.267.
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