解離性同一性障害の患者に異なる人格が共存しているかどうかという問題は,語義以上の重大な問題を含んでいる。たとえば,法的場面では,交代人格の1人が犯罪にかかわっている際の犯罪責任のあり方や,個々の交代人格に対して法的な存在として独立した権利を与えるかどうかということが問題となる。実際に,ある裁判では,証言前の宣誓をすべての人格に要求したことさえある(Slovenko, 1999)。さらに,もし解離性同一性障害の患者が真に独立して十分に発達した人格を持つならば,解離性同一性障害¥の病因のモデルに対して大きな難問が突きつけられることになる。たとえば,独自の性格特性や態度を持つ完璧な人格がどのようにして形成されるのか。また,数百の交代人格を持つ患者にとって,個々の人格がそれぞれ本当に他の人格から独立しているのか,それとも特定の人格は別の人格の単なる変異体もしくは別の人格の微妙な現われ方の違いだけなのか。このような解決すべき問題が生じてくるのである。
S.O.リリエンフェルド,S.J.リン,J.M.ロー 厳島行雄・横田正夫・齋藤雅英(訳) (2007). 臨床心理学における科学と疑似科学 北大路書房 pp.94
(Lilienfeld, S. O., Lynn, S. J., & Lohr, J. M. (Eds.) (2003). Science and Pseudoscience in Clinical Psychology. New York: The Guilford Press.)
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