最も古くから知られ,最も興味をそそられる自然界における偶然の一致が,大昔から老若男女を問わず聡明な人間を悩ませ,創意に富んだ説を次々に生み出してきた。それは,地球から見ると太陽と月が同じ大きさだという現象である。今でこそ,ただの遠近感の問題だとわかっているが,それだって,単に頭のいい人が言ったことを信じているにすぎない。
この現象の研究に最初に取りかかった人たちには,基礎となる確かな知識がほとんどなかった。。紀元前6世紀,ギリシャの哲学者ヘラクレイトスは,太陽の直径を約30センチと推測した。これが正しいとすると,地球から太陽までの距離は40メートルほどということになる。だが,今ならインターネットでちょっと調べれば,ヘラクレイトスの推測がまちがっていることはすぐに確かめられるし,太陽の直径は138万3740キロ,月の直径は3475キロという正確な数値までわかる。太陽の直径は月の直径の400倍で,太陽と地球の距離も月と地球の距離の400倍。つまり,この相対的な距離によって太陽と月が同じ大きさに見えるのだ。
マーティン・プリマー,ブライアン・キング 有沢善樹(訳) (2004). 本当にあった嘘のような話:「偶然の一致」のミステリーを探る アスペクト pp.38
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