『数の本』の著者ウィリアム・ハーツトンは,偶然の一致に対して,人はあまりに興奮しすぎると考える。たとえば,ゴルファーが2人連続でホールインワンを出したという話を聞いても,ハーツトンは少しも感心したりはしなかった。だが,その2人のゴルファーは親戚ではないが,苗字が同じだった。これは驚くべきことではないのだろうか。
いや,そんなことはない,とハーツトンは言う。「まず,ゴルファーの苗字が同じだったという小さな問題を片付けよう。トーナメントはウェールズで行なわれたが,2人の苗字であるエヴァンスという人はウェールズにはごまんといる」
だが,2人のエヴァンス,リチャードとマークは立て続けに3番ホールでホールインワンを出した。こんなことが起こる確率はどれくらいなのだろう。
ホールインワンを出す確率は,トップクラスのプロゴルファーで2780分の1,結構な腕前のアマチュアなら4万3000分の1くらいだろうとハーツトンは計算する。後者の場合,どのホールであれ,2人のゴルファーがティーショットで続けてホールインワンを出す確率は18億5000万分の1だと言う。
これはもう十分に驚くべきことではないか?
いや,そうでもない,とハーツトンは言う。「イギリスでは200万人のゴルファーが,平均して週に2回ラウンドしている。つまり,合計すると1年に2億ラウンド以上,36億ホールになる。そう考えれば,18億5000万回に1回の確率のショットだって,そうなさそうなことでもない」。実際,ハーツトンの計算が正しいなら,こういったことがイギリスのどこかで1年に1度くらいは起こるものと考えるべきなのだろう。
このような話や統計から,2つのことがわかる,とハーツトンは言う。それは,私たちは正しく可能性を見極めるのが苦手だということと,楽観的な考え方に偏っていきがちだということである。「ホールインワンとか,ポーカーのロイヤルフラッシュとか,くじで大当たりするとかいった話を聞いてその気になると,私たちは運命の女神がほほえんでくれることを願いながら,無茶な願望を胸にゴルフのスゥイングの練習をしたり,勝つ見込みのない賭けに大事にとっておいたお金をつぎこんだりする。だが同時に,毎年50万人もの人がサッカーでけがをして病院送りとなり,毎日5人が車の運転中に死に,1日に90人がタバコのせいで命を落としてもいるのだ」
マーティン・プリマー,ブライアン・キング 有沢善樹(訳) (2004). 本当にあった嘘のような話:「偶然の一致」のミステリーを探る アスペクト pp.116-117
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