株価変動は,予測がむずかしいことで知られている。株の売買に熱くなると,あっという間に一文無しになりかねないため,ある株式ブローカーが,人間わざとは思えない能力を発揮して市況をつかんでみせたところ,彼の株価予測はひっぱりだこになった。これを単なる運や偶然のせいだと言えるだろうか。それとも何っか別の力が働いたのだろうか?
じつを言うと,今回の場合,偶然などではなかった……もっとも,超常的な力や超自然の力が働いたわけではない。この男は株式ニューズレターを発行していたのだが,「私は最新のデータベースを使い,業界内部の事情通から情報提供を受け,高度な計量経済学モデルを駆使して株価予測をしています」と謳ったニューズレターを64000人に送っていたのだ。そのうち32000人分には,来週,ある銘柄の株価が上がると書き,残りの32000人分には下がると書いた。
翌週の株価がどう動こうと,彼はニューズレターの第2弾を送る——ただし,彼の予測が「当たった」32000人余りの人たちだけに。そのうち16000人分で次の週の株価上昇を予測し,残りの16000人分では株価下落を予測する。実際の株価変動がどうだろうと,16000人にとっては,彼の株価予測が2週連続で当たったことになる。そのやり方を続けるのだ。この手を使って彼は,自分の株価予測は必ず当たる,という幻想を作りだすことができた。
彼の目的は,ニューズレターの送り先を,6週連続で予測が(偶然)当たった1000人ほどに圧縮することだった。今後も「お告げ」のご利益にあずかろうと,この人たちなら喜んで,彼の要求通りに1000ドル払うはずだ。
マーティン・プリマー,ブライアン・キング 有沢善樹(訳) (2004). 本当にあった嘘のような話:「偶然の一致」のミステリーを探る アスペクト pp.268-269
PR