日本の人口を1億2750万とすると,日本で1万部売れた本でも,人口457万のノルウェーでは,わずか355部しか売れない計算になる。これでは採算が合わない。ましてや,人口が多い日本でも採算の取りにくい専門書をフィンランド語やスウェーデン語で出版することなど,もうほとんど不可能に近い。となると,専門的な知識を身につけようと思えば,それ以前の問題として,まず外国語ができなければ話にならない。自国の母語で書かれた知識や情報では,何を学ぶにも不自由なのである。
このような言語状況において,すべての若者に高等教育進学の可能性を与えようとすれば,子どものうちから外国語を教えておく必要がある。美術教師になりたくて大学に行くにしても,そもそも外国語を知らなければ,美学や芸術学を勉強することができないからである。国家は外国語教育に力を入れざるをえないし,国民にとっても,外国語の習得が死活問題となる。これは,ある意味で,不幸な状況である。
薬師院仁志 (2005). 英語を学べばバカになる-グルーバル思考という妄想- 光文社 p.185-186
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