しかし,そうではない。天文学のいろいろな問題と同じように,この話もそう簡単ではない。月の明るさを詳しく測定してみると,満月は上弦月の10倍もの明るさになるのだ。
これには理由がふたつある。ひとつは,満月のときの太陽は,われわれの視線と同じ方向から月をまっすぐ照らしていることだ。地球でも,太陽が真上にあれば影ができないが,低い位置にあると影が長くのびる。月でも同じだ。満月のときには月面に影ができない。一方,上弦月には影が多く,月面が暗くなって,月全体が暗く見えるのだ。満月にはそうした影ができないので,地球から見ると上弦月よりも2倍以上明るいのである。
もうひとつの理由は,月の表面と関係がある。隕石の衝突や,太陽からの紫外線,さらに昼夜の激しい温度差のために,月の表面数センチメートルは風化している。その結果できた粉末状の土は非常に粒子が細かく,細引きの小麦粉のようだ[この粉末状の土を「レゴリス」と呼ぶ]。この粉末には変わった性質がある。光を光源の方向にまっすぐ反射する性質があるのだ。ほとんどの物体は,光を四方八方に散乱させるのだが,月面のこの不思議な土は,入射した光のほとんどを光源へ集光させるのだ。この効果を「後方散乱」という。
半月の場合,地球から見ると横方向から太陽光が当たっている。この場合,月の土は太陽光を地球方向ではなく,太陽の方向に跳ね返す。一方,満月のときは,太陽は地球の真後ろにある。月を照らした太陽光は反射され,ほとんどが太陽方向に向かうが,地球も同じ方向にある。そうなると,まるで月が地球に光を向けているかのようだ。この効果と,月の表面に影がないことの両方の効果で,満月は思ったよりもずっと明るくなるのだ。
フィリップ・プレイト 工藤巌・熊谷玲美・斎藤隆央・寺薗淳也(訳) (2009). イケナイ宇宙学:間違いだらけの天文常識 楽工社 pp.92
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