ついでながらこの話は,潮汐にかんするある一般的な誤解を解消してくれる。人間は直接潮汐の影響を受けると考えている人がいる。私がよく聞く話は,人間は,大部分は水でできていて,水は潮汐力に反応するというものだ。しかし,この考えはちょっと変だ。何しろ,空気や固体地球も同じように潮汐の影響を受ける。しかしもっと重要なことには,人間の体は小さすぎて,潮汐から目立った影響を受けることはない。地球に潮汐があるのは,直径が1万数千キロメートルと非常に大きいからだ。これだけの直径があるおかげで,月からの引力の差が生じるのだ。身長2メートルの人でも,頭と足の間の重力差は,わずか0.000004パーセントにすぎない。地球全体に働く潮汐力は,これの何百万倍以上もある。だから言うまでもなく,人間の身体に作用する潮汐力ははるかに小さく,測定不可能なのだ。実際には,起立した姿勢では身体が自然に縮むので,潮汐力の影響は完全にはわからなくなってしまっている。あなたの身体では,潮汐で伸びるよりも,重力で縮むほうが大きいのだ。広大な湖でも潮汐の影響はほとんどない。たとえば,五大湖の場合,潮汐による水位の変化はわずか4,5センチメートルだ。もっと小さい湖なら,変化はさらに小さくなるだろう。
フィリップ・プレイト 工藤巌・熊谷玲美・斎藤隆央・寺薗淳也(訳) (2009). イケナイ宇宙学:間違いだらけの天文常識 楽工社 pp.102-103
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