光の波長が異なると屈折の度合いも違ってくる。たとえば青と緑の光は,赤よりも大きく屈折する。実際ひどくシーイングが悪いときには,目に届く光が屈折で次々に変わるので,星の色が変化して見える。シリウスは夜の星では一番明るいのだが,ふつう肉眼では安定して白色に見える。しかしシリウスが低く見えるときには,激しく劇的に明滅して急速に色を変化させる。私はこの光景を何度も見て幻惑された。
この現象はトラブルの元にもなる。あなたがひとりで夜道,車を走らせていたとしよう。明るい物体が追跡してくるような気がする。あなたが見つめると,その物体は激しく明滅し,明るくなったり消えそうになったりし,オレンジから緑へ,赤へ,青へと変化させる。宇宙船か?エイリアンに誘拐されるのか?
いや,イケナイ宇宙学の犠牲になっただけだ。しかしどこかで聞いたことのある話だと思わないだろうか?UFOの話の多くがこんなものだ。星はきわめて遠くにあるので,ドライブしていると追跡してくるように錯覚してしまう。星はまたたきで明るさと色を変化させる。残りの話は想像力の働きだ。この手のUFO話を聞くといつも笑みがこぼれる。UFOではないかもしれないが,地球外のものであることは確かだ。
フィリップ・プレイト 工藤巌・熊谷玲美・斎藤隆央・寺薗淳也(訳) (2009). イケナイ宇宙学:間違いだらけの天文常識 楽工社 pp.133-134
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