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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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ウィンステッドの野人

 1895年8月,ニューヨーク市の新聞は,毛むくじゃらの裸の男がコネティカット州ウィンステッドの住民を脅かしているというニュースを受け取った。
 好奇心をそそられて,新聞各紙は記者を派遣して詳細を知ろうとした。ところが,小さな町にマスコミがやってきたことで町民は興奮し,いたるところで野人を”目撃”しだした。新たな情報が出るたびに,野人の獰猛さは増していった。日ごとに1フィートかそこら身長が伸び,どういうわけか牙のような歯が生えはじめた。やがて,野人は地面まで届く太い腕を持つ,がっしりしたゴリラのような風貌になった。
 こうした戦慄すべき報道が,ウィンステッドの町にヒステリーに近い混乱をあおりたてた。人々は怪物に遭遇するのを恐れて外出をいやがるようになった。百人を超える武装隊が組織され,怪物を探しだして殺すために送り出された。そして幾日にもおよぶ捜索の末,やぶに潜んでいる怪物を首尾よく射殺した。
 しかしよく見れば,恐ろしい怪物の正体は農夫が飼っていた迷子の雄ロバではないか。そしてついに真相が明らかになる。野人などもともと存在していなかったのだ。
 最初の報道は《ウィンステッド・イブニング・シチズン》の若手記者ルー・ストーンのあまりにも豊かな想像力の産物だった。その後の騒動は大衆心理によるものだ。それから数年にわたって,ストーンはウィンステッド周辺の珍奇な植物や動物を紹介する記者として鳴らした。その無尽蔵の記事の中には,焼きリンゴのなる木,口をきいた犬,独立記念日に赤と白と青の卵を産んだ鶏などというものもある。
 ストーンは愛情をこめて”ウィンステッドの嘘つき”と呼ばれた。死後も,ウィンステッドの住民は橋にストーンの名前をつけた。その橋はサッカー・クリーク(だまされ川)に架かっている。

アレックス・バーザ 小林浩子(訳) (2006). ウソの歴史博物館 文藝春秋 pp.116-117.
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