たとえば,近くに誰もいないにもかかわらず,自分を非難したりバカにしたりする声が聞こえてくるという現象が「幻聴」です。幻聴は,幻覚の一種です。
またとくに理由なく,見知らぬ他人が自分に殺意を抱いていると感じたり,自分の周囲に何かの陰謀があって監視されたり盗聴されたりしていると確信するものが「被害妄想」です。これは妄想の中でも頻度が高いものです。通りすがりの見知らぬ他人から,敵意を持ってにらまれたように感じるというようなこともあります。
一見すると,このような幻覚や妄想などの症状は,日常からかけ離れた異質なものであるように思えます。一般の人はもちろん,医療関係者においても,患者が「幻覚」や「妄想」を訴えると,もう手に負えないと尻ごみすることが多いのです。
しかしながら,幻覚や妄想は,正常な心理と不連続なものではありません。実は,「健常人」においても,幻覚や妄想に類似した体験はしばしば出現しています。
その1つが「魔術的思考(マジカル・スィンキング)」と呼ばれるものです。この言葉が意味しているのは,迷信深いこと,千里眼やテレパシー,第六感などを信じることで,宗教的な奇跡を信じることなどが含まれます。
岩波 明 (2011). どこからが心の病ですか? 筑摩書房 pp.17
PR