一時,「新型うつ病」という用語がもてはやされました。これは,医学的に明確な定義は示されていませんが,「うつ病で休職中であるにもかかわらず,海外旅行に出かけたり,自分の趣味の活動には積極的な人」や「うつ状態を訴えるが,自責感に乏しく,何かと会社とトラブルを起こす社員」などを指すということです。
この「新型うつ病」は,「うつ病」ではありません。精神疾患とも言えない場合が多いと思われます。うつ病の診断には,「うつ状態」が持続的にみられることが必須です。場面によってうつ状態を使い分けできるものは,そもそもうつ病とは呼べません。新型うつ病について述べている書籍や論文は,医学的に信用できるものではないのです。
このような「偽」のうつ病患者は,ジャーナリズムの影響もあって,最近の日本において蔓延しています。彼らは,しばしば自らの「病気」を利用します。あるいは自らの利益のために,病気と称するのです。
岩波 明 (2011). どこからが心の病ですか? 筑摩書房 pp.44-45
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