1976年,イギリスの天文学者パトリック・ムーアはBBCラジオ第二で次のような予報を行った。午前9時47分きっかりに冥王星が木星の後ろを通過し,この惑星の配列によって木星の引力が弱まり,反対作用で地球の引力が抑制されるので,一時的に体重が軽くなるだろう,と。さらに,この天文学的現象を一般人が肌で感じる方法があるという。9時47分にジャンプしてみれば,不思議な浮遊感を覚えるはずだというのだ。
午前9時47分になると,BBC第二には何百人もの聴取者から電話がかかりはじめ,口をそろえてその感覚を味わったと告げた。ある女性は11人の友人とテーブルを囲んでいたが,その場の全員はもとより,テーブルまでもが室内を浮遊しはじめたという。床から急に浮き上がったと思うと,いきなり天井に頭をぶつけたと文句を言う女性もいた。
電話の発信者たちがほんとうに浮遊感を体験したのなら,きっと暗示にかかったにちがいない。なぜなら,引力は一日中まるっきり変わらなかったのだから。
アレックス・バーザ 小林浩子(訳) (2006). ウソの歴史博物館 文藝春秋 p.208.
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