巻物から冊子本に移行しなかった書物はそのまま消えていった。わたしたちが78回転のレコード盤を見限ったのと同じ理由で,古代の人々は巻物を隅に追いやった。情報記憶システムとしては時代遅れとみなされたのである。ほんの数十年前,78回転のレコードは音楽の記憶媒体として好まれていたが,いまではターンテーブルの上よりごみ箱のなかで見かけることが多い。同じように,古代の書物も古代世界のごみ箱から断片的に発見されることがある。アルキメデスがエラストテネスに宛てた手紙が巻物のまま残されていたとすれば,まずは放置され,やがて捨てられて最後には塵と化していただろう。巻物のまま残されたアルキメデスの文章の写しはそのとおりの運命をたどり,ごみ箱から断片すら見つかっていない。
リヴィエル・ネッツ,ウィリアム・ノエル 吉田晋治(監訳) (2008). 解読!アルキメデス写本:羊皮紙から甦った天才数学者 光文社 pp.110-111
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