羊皮紙作りは,万人が楽しめる作業とは言えない。どう考えてもリヴィエルには無理だ——彼は菜食主義者なのである。手順はこうだ。動物を殺し,血管から血を抜く。つづいて皮をはぐ——下腹に切りこみを入れ,肢を切り落とし,皮をはぎ取る。それから,石灰岩を熱してできる生石灰の希釈液を桶に張り,皮を浸す。石灰液は有機組織を破壊するので,表皮と皮下脂肪が溶け,毛が抜けやすくなり,真皮の内側の層だけが損なわれずに残る。この層は主にコラーゲンでできている。コラーゲンは,細長いまっすぐな軸にアミノ酸の鎖が3本巻きついた蛋白質の一種だ。鎖は少しずつずれて集まり,それによってできた繊維にははっきりとした末端がない。コラーゲンは羊皮紙に欠かすことのできない成分であり,羊皮紙の強さのもとである。数日たったら皮を桶から引きあげ,台に載せて刃の尖っていないナイフで削ぐ。脂肪と毛をあらかた取り除いたら,皮を木製の枠に張る。乾燥が進むにつれ,縮んで張りが出る。ぴんと張った状態になったら今度は半月形の鋭利なナイフで皮をこする。そして木枠からはずせば羊皮紙のできあがりだ。
リヴィエル・ネッツ,ウィリアム・ノエル 吉田晋治(監訳) (2008). 解読!アルキメデス写本:羊皮紙から甦った天才数学者 光文社 pp.123
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