データキューブから情報を抽出する最も基本的な手順は,“主成分分析”だとロジャーは言った。それぞれの波長で撮られた画像の数値に重みづけをして重ねあわせ,コンピュータにひと組の画像を作りあげてもらう。この新しい画像は,互いに近いピクセルの数値の差の大きさをもとにしたものだ。結果は色のパターンではなく,差異のパターンとして現れる。新しい組の最初の画像は,ちがいのある部分のコントラストが最も大きい個所を強調している。二番目の画像はつぎに大きいところを,三番目の画像はそのまたつぎに大きいところを強調したものだ。この過程により,最初は同じ部分を異なる波長の光で撮影したひと組の画像だったものが,最終的には光の波長を重ね合わせて画像中の異なる対象を映しだしたものに変わる。
このパリンプセストでは明らかに,第1主成分は最もコントラストの強い画像の特徴,すなわち祈祷書の文章を表す。周囲の薄茶色の羊皮紙から際立って見える黒のインクで書かれているからだ。しかし,第2主成分は下に書かれていたアルキメデスのテキストがほとんどである。とはいえ,別の主成分画像はカビを映しだすかもしれない。成分を析出することができたら,数字を操作して思いどおりに明るさを調整すればいい。
リヴィエル・ネッツ,ウィリアム・ノエル 吉田晋治(監訳) (2008). 解読!アルキメデス写本:羊皮紙から甦った天才数学者 光文社 pp.292-293
PR