単純な例の多くは,関係する個人の意志や認識を完全に無視し,人びとを「知性なき主体」として扱うと最も理解しやすい。スポーツイベントで見られるウェーブについて考えてみよう。この現象が初めて世界の注目を浴びたのは,1986年にメキシコで開催されたサッカーのワールドカップでのことだった。そもそもはラ・オーラ(スペイン語で「波」の意)と呼ばれていたこの現象は,一群の観客が次々に立ち上がっては腕を上げ,すばやく着席するというものだ。その効果は実に劇的である。普段は液体の表面に起こる波を研究している物理学者のグループがこの現象に興味を抱き,巨大なサッカー場で起こったラ・オーラのフィルムを集めて研究してみた。すると,こうした波は時計回りに伝わっていくのがふつうで,つねに「秒速20席」で進むことがわかった。
ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.40
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)
PR