感情の状態が広く伝染していく現象は,数世紀にわたって報告されてきた。ブコバで突如起こったような笑いの伝染だけではない・感情が人から人へ広がり,多くの人に影響が及ぶ現象を,現在では集団心因性疾患(MPI)と呼んでいる。集団ヒステリーという史的で古めかしい表現はあまり使われない。MPIは明らかに社会的な現象であり,ほかの点では健康な人びとを心理的カスケードに巻き込んでしまう。群れのなかで1頭だけ驚くバッファローのように,1人が1つの感情的反応を示すと,ほかの大勢の人たちも同じことを感じて感情の集団暴走が起こるのだ。
MPIには主に2つのタイプがある。純粋不安型の場合,さまざまな身体症状が出る。たとえば,腹痛,頭痛,失神,息切れ,吐き気,めまいなど。運動型の場合,狂乱状態での踊り,偽発作,そしてもちろん,笑いなどといった行為に取りつかれる。とはいえ,こうした行為の底には恐怖や不安の実感が潜んでいる。つまり,MPIの2つのタイプはともに同じ心理作用を土台としているのだ。
ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.59
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)
PR