アメリカで現在見られるナッツアレルギーへの強迫観念は,格好の例かもしれない。完全な「ナッツフリー」を宣言している学校の数は,誰に聞いても増えているという。ナッツそのものやピーナッツバターなどの食品はもちろん,自家製の焼き菓子や原料の詳細が明示されていない食品も,孔内への持ち込みが禁じられているのだ。校門には掲示が出され,汚染物質の危険から生徒を守るため,門を入る前に手を洗うよう来訪者に呼びかけている。
ナッツアレルギーのアメリカ人は推定で330万人。シーフードアレルギーとなるとさらに多く,690万人もいる。ところが,深刻な食物アレルギー反応で入院するのは,総計で年間2000人にすぎない(全国の入院患者数は3000万人以上にのぼるというのに)。さらに,食物アレルギーによる毎年の死亡者は,大人と子供を合わせてせいぜい150人といったところだ。ハチに刺されて死ぬ人が年間50人,雷に打たれて死ぬ人が100人,自動車事故で死ぬ人が4万5000人もいるのとくらべてほしい。あるいは,スポーツ中に負った外傷性脳損傷で入院する子供が毎年1万人,溺れ死ぬ子供が2000人,銃による事故で死ぬ子供が1300人もいるのとくらべてほしい。それでも,スポーツをやめようという声は起きていない。食器棚のピーナッツバターは処分するのに,銃は処分しない親が数千人はいそうである。毎年,徒歩や自動車で学校に向かう途中に死ぬ子供のほうが,ナッツアレルギーで死ぬ子供よりも多いのは間違いない。
ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.66-67
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)
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