過去40年のあいだに,成人の喫煙者は全体の45%から21%へ減少してきた。40年前は,事務所,レストラン,さらには飛行機のなかでさえ,タバコの煙が立ち込めていたものだ(1987年に飛行機内での喫煙を禁じる規定ができると,大きな前進として熱烈に歡迎された)。ところが現在は,喫煙者は屋外で小さな集団になって身を寄せている。
だが,,人びとは独力でタバコをやめてきたわけではない。そうではなく,大勢でいっせいにやめてきたのだ。私たちはフレーミングハム心臓研究の社会的ネットワークに関するデータを利用し,過去40年間の喫煙の減少について分析してみた。すると,肥満の蔓延の裏返しのようなパターンがあることが分かった。ある人がタバコをやめると,友人,友人の友人,そのまた友人へと波及効果が広がっていくのだ。肥満と同じように,喫煙行動も3次の隔たりまで拡大していく。ここでも「3次の影響のルール」が働いているわけだ。だが,肥満よりも喫煙のほうがグループ効果はさらに高い。鳥や魚の群れと同じく,禁煙には時間と空間における一種の同調性がある。相互につながった喫煙者グループの全体が——メンバー同士はお互いを知らなくても——ほぼ同時にそろってタバコをやめる。まるで,反喫煙の波が全員に波及していくかのようだ。群れが特定の方向に飛んでいくのを一羽の鳥が食い止めるように,1人の喫煙者が禁煙を先導するのかもしれない。タバコをやめる決意は,ばらばらの個人が1人でするわけではない。そこには,直接・間接につながった個人からなるグループの選択が反映しているのである。
ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.148-149
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)
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