ネットワークを理解すれば,自明とは言えない別の革新的な戦略にも到達できる。ある集団における伝染病の拡大を防ぐため,やみくもに予防接種を実施すれば,ふつうはメンバーの80〜100%を対象とする必要がある。はしかの蔓延を防ぐには,全体の95%に予防接種をしなければならない。より効率的な方法は,ネットワークのハブ,つまりネットワークの中心にいる人や,交際相手の最も多い人をターゲットにすることだ。とはいえ,最善の予防接種法を見つけ出そうというときに,ネットワーク上の人びとの絆を事前に見きわめるのは難しい。だが,それに代わる画期的な方法がある。誰かを適当に選び,その一の知り合いに予防接種をするのだ。この戦略を使えば,ネットワーク全体の構造がわからなくても,ネットワークの特性を利用できるのである。適当に選ばれて知り合いを挙げた場合とくらべると,知り合いに挙げられた人のほうが多くのつながりをもち,ネットワークの中心に近いところにいる。多くのつながりを持つ人は,つながりの少ない人よりも,知り合いに挙げられる可能性が高いからだ。
実際,この方法で選んだ約30%の人に予防接種をすれば,適当に選んだ99%の人に予防接種をする場合と同じレベルの予防効果があるのだ!同じようなアイデアは,逆の問題にも応用できる。つまり,新しい行動や新しい病原菌(あるいは生物テロ攻撃)を監視する最善の方法は何かという問題だ。人びとをやみくもに観察するのがいいだろうか,それともネットワーク上の位置に応じてターゲットを選ぶのがいいだろうか。ネットワーク・サイエンスが与えてくれる情報をもとに監視対象を選択すれば,700倍も効率がいい場合がある。
ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.167-168
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)
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