たとえば,1オンス(28.35グラム)の金貨が500ドルで売れるとしてみよう。だが,市場にはその金貨を1000ドルで買ってくれる人がいると思えば,あなたはおそらくその値段で売ろうとするだろう。いったん1000ドルという値段をつければ,売りに出ている輝く金貨を目にするすべての人に,あなたの考えではその金貨の価格は500ドルをはるかに上回っているというシグナルが送られる。言い値の1000ドルでは売れなくても,500ドル以上では売れるだろう。すると,金価格の上昇がほかの市場参加者へのシグナルとなる。一部の人は金への需要が増えているのだと信じ込み,将来はさらに高い価格で金を買おうとする人が現れるはずだと考えるかもしれない。スポーツイベントでウェーブをする人たちのように,市場の投資家はおたがい同時にシグナルを受け取り,価格を現実離れした水準にせりあげてしまう。株式市場や住宅市場,さらには(17世紀のオランダの)チューリップ市場における「根拠なき熱狂」の背後には,まさにこうした状況があるのだ。
ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.195
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)
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