信念とは,われわれが直感的に把握できるが定義することは難しく,深く根ざした考え方を指す。信念は物事や状況に関するものであり,信じる人が,それらの物事と状況について述べられたことを事実と受け止める必要がある。例えば,私が自分の上司は電気ウナギのような管理能力を持っていると信じるとするならば,比喩的ではあるものの,私はこの評価が上司の行動様式を代表していると考えていることになる。この信念は,私が持つ他の信念——よい管理とはなにか,上司の過去の行動,電気ウナギの行動などに関するものにも依存している。長い間には,経験に基づいて,そのような信念の極めて複雑なネットワークを作り上げていくことになる。
しかしながら,そのようなネットワークの複雑性は,それを構成する信念が正しいことを保証するものではない。新しい情報は,私にそれらの信念の一部を変更もしくは棄却することさえ要求する場合がある。例えば,電気ウナギは方々を動き回って時間を過ごすという私の想像は——私の上司の管理手法の比喩になるのはそのためだが——電気ウナギがじつは正確で有能な捕食者であるという自然に関する番組を見た後には存在しなくなるかもしれない。その番組を見た後には,電気ウナギについての信念ばかりでなく,私の上司についての信念も変えなければならないだろう。
キャスリン・テイラー 佐藤敬(訳) (2006). 洗脳の世界——だまされないためにマインドコントロールを科学する 西村書店 pp.172-173
(Taylor, K. (2004). Brainwashing: The Science of Thought Control. London: Oxford University Press.)
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