状況によっては,そのような行動過程が正しいこともあり,われわれは火事からは退き,捕食者からは逃げる。しかし時には,まず初めに操作するものが誤った警報を鳴らすことで単純な行動過程を引き起こしたがために人々の行動過程が単純になることもある。感化の専門家は,その被害者が特定の行動(被害者が望むか否かにかかわらず)をとるように圧力を加えるために警報を鳴らす。ヒトラーが現れるずっと以前には,反ユダヤ主義の霊的概念に感染した人達は単にユダヤ人を忌むべきであると言っただけではなかった。ヨーロッパ(イギリスを含む)におけるユダヤ人虐待の恥ずべき歴史が示しているように,彼らは「問題」の解決を提案し,多くの場合それを実行した。ナチスを鼓舞した誹謗的ユダヤ主義は馬鹿げており,論理の欠落や証拠の欠如にあふれている。当時これを指摘したのは何人かの勇敢な声であった。しかしほとんどのドイツ人は,自分たちが信じたいと思うことを信じた。彼らの感情はすでに刺激され,彼らの文化に広く分布する反ユダヤ主義によって,ユダヤ人であることの霊的概念が彼らにとって取り返しが付かないひど汚れたものである(主として恐れと嫌悪によって)というところまで入り込んでいた。ナチスのプロパガンダは地に落ちて実りを生んだ。最も強力に主張された合理的議論でさえ,潮流を起こすことはできなかった。
キャスリン・テイラー 佐藤敬(訳) (2006). 洗脳の世界——だまされないためにマインドコントロールを科学する 西村書店 pp.291
(Taylor, K. (2004). Brainwashing: The Science of Thought Control. London: Oxford University Press.)
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