自己分析と並んで,この20年足らずのうちに就活の中核的存在となったエントリーシートだが,前述のとおり,そもそもは,大学生の14%が入社を希望していたという当時の超人気企業・ソニーが,大学差別が当たり前,配属先は企業の決定事項であった時代に「大学名不問」「職種別採用」という驚異的・画期的な採用手法を導入した際に考案されたものだ。「応募動機」「教室外の活動で一番力を入れたこと」「今関心を持っていること」などを記述させる,という内容は,これまでの一律型大量採用ではなく,強い意志を持った学生からの応募を,という志から生まれたもので,極めて特殊な,個性的なものだった。応募の段階でこれほど負荷のかかる内容を書かせる,という企業はそれまでには一社もなかったため,大きな反響を呼んだものだ。
ところがである。就職氷河期という社会環境,厳選採用というムーブメントが,こんな特殊な事情で生まれたツールを,履歴書に代わる採用活動のインフラにしてしまった。今や,企業の大小問わず,ほとんどの会社がエントリーシートを事前提出書類として設定し,「やりたいこと」を問うている。そんなにたくさんの会社が「やりたいこと」を問う必要があるのだろうか?自立型人材を本当に望んでいるのだろうか?採用する人材が仮に100人だとしても,その100人すべてが自立型人材である必要性,必然性は本当にあるのだろうか?そんな疑問をよそに,かつて履歴書を提出させるのが常識であったのと同様に,今はエントリーシートを提出させるのが「常識」になっているのだ。そして,多くの企業が,その内容の良し悪しで一次選考をしている。
豊田義博 (2010). 就活エリートの迷走 筑摩書房 pp.70-71
PR