ゴール志向をいたずらに高めることは,就活エリートの迷走の最大の原因である。また,就活漂流層,諦観層を生み出している主因であることも,もちろん忘れてはならない。「やりたいこと」が見つからないと,自己分析をしっかりやらないと就職できない,という事態を,これ以上看過できない。それは,キャリア・デザインの王道でもなんでもない。みんながそんなことをするのは,大変危険なことなのだ。それがどんな事態をもたらすのかは,今の日本の現状をみれば明らかだろう。
しかし,「やりたいこと探し」をやめよう,という精神論だけではこの事態は打開されないだろう。そこで提案したい。エントリーシートを廃止しよう。
エントリーシートは,「あなたがやりたいことは何ですか?」というコミュニケーションを生み出した原点であり,いまや採用活動・就職活動の中核に位置するものだが,あまりにたくさんの会社が,個々に微妙に違いながらも本質的には全く同じものを使っているため,ほぼ全員が取り組み,マニュアルやノウハウの跋扈を誘発する現在の就活の問題の最大の温床である。これを,生みの親であるソニーをはじめとした人気企業,有名企業がすべてやめたら,世の中は大きく変わるだろう。
豊田義博 (2010). 就活エリートの迷走 筑摩書房 pp.219-220
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