本をつくってきた側の立場から言わせてもらえば,「毎日追われるようにつくっている本なら,出さないほうがマシ」「出さない選択のほうがよほど賢い」ということになる。編集者というのは,売れる本よりいい本(社会的に意義のある本,価値のある本)を,納得のうえで出したいものだ。それが売れてくれて,つまり,社会に価値を認められて,初めて報われた気持ちになる。
ところが,ビジネスとしての出版経営は,たいていの場合,毎月決まった点数を刊行するというノルマのもとに運営されているから,打席数が増えれば増えるほど,1冊の本にかける時間は減少し,その結果,本のクオリティは落ちていく。時間をかければいい本が出せるとは限らないが,少なくとも企画段階から2,3カ月では,いい本は出せない。
私は「もうこんなに出すのは止めようよ」と,何度か言ったことがある。しかし,「編集長自らそんなことを言うなんてありえない」と断られた。
山田順 (2011). 出版大崩壊:電子書籍の罠 文藝春秋 pp.81-82
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