あの時,記事が差し替わって,大きな扱いになった理由は,今回のネットの事件があった少し前に,韓国の俳優がインターネットの誹謗中傷を苦に相次いで自殺してしまったことにあった。
新聞社の編集長は,日本でもありえる深刻な問題だと考え,急遽,予定していた記事を変更し,社会面のトップで扱うように指示を出したらしい。担当した記者は警察から教えてもらった情報では記事が足りない。中傷された側,中傷した側に事件の詳細を聞きに行く時間もない。
一人前の味噌汁の材料しかないのに,突然上司に,百人分用意しろと指示された記者。
当事者だからわかることだが,水増し分の情報はネット上の匿名の書き込みをそのまま記事にしたのだと思う。
あの新聞記事で二次被害が生じ,殺害予告も出てしまったが,悪いことばかりではなかった。
マスコミ各社がこの事件を大きく取り上げたことで,闇サイト,有害サイトの犯罪を重視していた警察の上層部が,名前を書き込まれれば誰でも簡単に殺人犯にされてしまうインターネット上の現状を認識してくれ,誹謗中傷,脅迫に対する取り締まりを強化するよう各警察署にお達しが回ったらしい。
それならよかった。
スマイリーキクチ (2011). 突然,僕は殺人犯にされた:ネット中傷被害を受けた10年間 竹書房 pp.236-237
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