過去30年間,高級ブランドにおける最大の変化は,収益のみを重視するようになったことだ。かつて高級ブランドがまだ家族経営だったころ,オーナーは「収益を上げること」以上に,「最高品質の製品を生産すること」を目標にしていた。しかし大物実業家たちが高級ブランドを仕切るようになると,ブランドの目標は「高級ブランド教団」と私が名づけた現象を消費者たちの間に引き起こした。
今日では高級ブランドはベースボール・カードのように収集され,芸術作品のように飾られ,偶像のようにあがめられるものとなっている。アルノーをはじめとする大物実業家たちは,ブランドの焦点を製品そのものより,製品が象徴するものへ変えた。そして,それを達成するためにブランドの歴史を強調し,注目の若手デザイナーを雇って時代の先端を感じさせるセクシーなファッションに替え,名称を簡略化してブランド名を消費者の脳裏に刻みつけ(クリスチャン・ディオールはディオールに,バーバリーは最後の「ス」をとった),ハンドバッグからビキニまでロゴをあらゆるところにつけまくり,メディアを総動員して広告を打ち,アルノーが好んで言うような,ブランドの「時代を超越した魅力」を打ち出していった。
ダナ・トーマス 実川元子(訳) (2009). 堕落する高級ブランド 講談社 pp. 44-45
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