ここでちょっと立ち止まって,規範的科学と実証的科学の違いを説明しておくのがいいだろう。規範的科学(これはどう見ても自己矛盾をはらんだ表現だ)は規範にもとづく教えを説く。物事がどうあるべきかを研究する学問だ。一部の敬愛学者,たとえば効率的市場教の信徒たちは,人にとって合理的に行動するのが一番いい(数学的に「最適」である)わけだから,人間は合理的,人間の行動も合理的だと仮定して研究を行うべきだと信じている。その正反対にあるのが実証的科学だ。こちらは人が実際にどう行動しているかの観察にもとづいて形づくられる。経済学者は物理学者をうらやんでいるけれど,その物理学はもともと実証的科学だ。一方,経済学,とくにミクロ経済学や金融経済学は圧倒的に規範的である。規範的経済学は美意識に欠ける宗教みたいなものだ。
ナシーム・ニコラス・タレブ 望月 衛(訳) (2008). まぐれ 投資家はなぜ,運を実力と勘違いするのか ダイヤモンド社 p.232.
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